【写真】独特のシングル、そこにいくまでの打撃の組み立て方に工夫が見られたステーリング。反則で王座を失ったピョートル・ヤンはこれまで見たことがない攻撃と防御を駆使して戦っていた (C)Zuffa/UFC
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。
青木が選んだ2021年3月の一番、第一弾は3月6日に行われたUFC259 からUFC世界バンタム級選手権試合=アルジャメイン・ステーリングピョートル・ヤン戦について語らおう。
──青木真也が選ぶ2021年3月の一番、最初の試合をお願いします。
「ハイ、アルジャメイン・ステーリング×ピョートル・ヤンですね。この試合は『アルジャメインがある』って言っていたじゃないですか。で、結果的にアルジャメインだったと(笑)」
──本当に結果的に……でした。
「ただアルジャメインって、ヒザをついた状態からシングルレッグに入るじゃないですか、アレは盲点をついていて面白いと感じました。あの組み方を多用していると、相手は戦い辛いですよね。北米ルールだと、ヒザをキャンバスについている選手にヒザも蹴りも入れることができないから。
水垣さんも、あのヒザつきから組まれたんですけど、アレを身に着けることができれば強力な武器になると思ったんです」
──それは北米ルールならということですよね。
「ハイ。北米ルールだと凄く有効な策だと思います。日本国内では北米ルールを視野に入れている選手が、極端に少なくなっているかもしれないですけど」
──アルジャメインのようにそこから先があれば大丈夫ですが、それがないと打撃戦を避けているという風にとられないでしょうか。
「今のMMA、格闘競技でいうとそうなります。それでも凄く有効なテクニックだし、そこにいくまでもアルジャメインは組み立ても工夫している。そのための打撃も凄く良かったし。
まぁピョートル・ヤンの方が強いとは思うんだけど、その工夫が見られて良かったです」
──反則負けになってしまったのですが、ピョートル・ヤンの方が完全に盛り返していました。
「ピョートル・ヤンは完全に顔を覆う防御が興味深かったです。あれにはムエタイの影響が強いし、まだ倒されてないという強さが出ている戦い方だと思います。
そのうえで大外刈りを決めて。ロシアン・レスリングというか、ロシアン柔道というか……民族格闘技の集合体がサンボというのに通じていて、組み技の集合体を見せていますね」
──そのうえで2人とも妙なリズムの試合だったように感じました。ステーリングにしても、積極的な攻めは序盤に限られ、ピョートル・ヤンは戦い方自体がまるで変わってしまっていました。
「ピョートル・ヤンは練習環境が変わったというのも関係しているかもしれないですね。アルジャメインも5Rということがあったでしょうね。でも、僕はあのぐらいの試合で十分に満足できました。
ピョートル・ヤンのロシアっぽさと、アルジャメインの米国レスリングらしさが見られて。今、UFCでも世界戦で注目されても……アデサニャ×ブラボビッチがそうだったように、試合内容では引っ張ることができていないですよね」
──確かにその通りです。試合自体もペース配分が目立ちます。
「ハイ、だからMMA世界一を決めるっていう盛り上がりは試合内容からは感じられない。疲れないことが前提になっていると、ボクシングっぽいですよ。退屈になっていってしまうからこそ、ルールの改正はあるかもしれないです」
──それにしても青木選手が着眼するのは、他がやらない技術、青木選手も使っていない技術ということでしょうか。
「まさにアルジャメインのヒザをついてからシングルレッグは、そうですね。ONEルールだと、グラウンドでのヒザが認められているので──無理ですよね。向いていない。じゃあONEのルールだと何が向いているのかっていうことは考えています」
──MMAはここまで進化して、ルールに則して勝つ必要がある状態ですし、北米ルール、ONEルール、リング使用かケージ使用、そしてサッカーボール有りなど、MMAという一言では済まされない。そのルールに特化した勝ち方、技術体系ができてきていると思うのですか。
「もう別物です。立ち技だとK-1ルールが、独立したように。ムエタイとK-1は別物で。だからMMAも北米ルール、ONEルールという風に違ったモノになるかと思います。サッカーボールキックの有無もそうだし、ブレイクのタイミング、スクランブルの評価も含めて戦い方も違ってきますしね。RIZINのように背中をつけて良いなら、理屈では引き込んでも良いということですよね」
──それはONEにも当てはまるのではないでしょうか。テイクダウンを重視しないのであれば、引き込みをマイナス評価するべきでないと。
「だからこそ、引き込むという策もありで。ただし、実は一旦下になってすぐに起き上るというのはレスリング、それは北米MMAですよね。だから、そのような理屈の攻撃をガードポジションをとるのではなく、片ヒザをついた状態から組んでいっているアルジャメインが、発想として面白かったです。王道の勝ち方は存在しますが、それだけでない。だからこそ研究の余地が残っている」
──このルールの間を行き来できる選手と、そうでない選手が出てきそうです。
「行き来できない人間はいますね。僕はどっちに向いているというのもない。どっちにしてもない、技術体系なので。性格的にも何が向いていて、何が向いていないのかを見るのは得意なので。それをいじって分析したいですね」
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