平田樹は日本MMA界の至宝だ。格闘代理戦争で優勝しプロデビューが海外=ONEというシンデレラ・ストーリーを進むだけでなく、既に存在感が特別であることは間違いない。
そんな平田の横には、常に兄・直樹の姿が見られた。妹に続き、プロMMAファイターの道を進み始めた彼が立つ位置、見える光景は妹とは明らかに違う。そして周囲には平田樹の兄だかと注目する。
彼もまた妹とは違った意味で特殊な環境でキャリアをスタートさせた。そしてケージの中で、既に特別かもしれない姿を披露している。
平田直樹にプロデビュー・イヤーを振り返ってもらい、今年をどのように戦うのかを尋ねた。
──これまでも何度も平田樹選手のお兄さんとして、国内外で顔を合わせるという機会はあったのですが、今日はMMAファイターとして初インタビューをさせていただきます。
「ありがとうございます。宜しくお願いします」
──いきなり単刀直入にお伺いしますが、同じMMAというフィールドに立っていて平田樹に兄という立場に葛藤を感じることはないでしょうか。
「プロデビューする前は、樹のために何ができるのかということを第一に考えて常にサポートをしてきました。今も樹を支えるということに関しては、何も変わらないです。同時に自分もMMAで戦うようになり、応援するという気持ちに加えて負けていられないという想いも芽生えてきました。
応援してサポートしてあげたい気持ちと、自分も負けていられない……名前をあげないといけないっていう気持ち、両方持っています」
──平田樹というMMAファイターは、過去に例を見ないプロセスを歩んでいる選手です。一方で直樹選手は大学の卒業を待ってMMAの道を選びました。彼女の影響を受けたということはあるのですか。
「自分もずっと柔道をしてきましたが、格闘技が好きでやってみたいという気持ちがありました。大学4年の時に周囲は就活をしていたのですが、柔道選手からMMAファイターになる人もたくさんいて、打撃は全く経験がなかったのですが、寝技が好きでどれだけできるのか試したいとも思っていました。
樹が先にジムに通い始めて、僕もMMAの練習を少しやりながら柔道を続けていました。就職は周囲も公務員になることも少なくなくて、僕もそれには試験を受ける必要があるので、また勉強をする時間がいるというなかで、格闘代理戦争に樹が出るようになり──格闘技で食っていくという風に気持ちが固まりました」
──現状、樹選手がプロとして先を行っています。そして、直樹選手は女子とは違う男子MMAのヒエラルキーのなかで、キャリアを積み始めました。いわば特別な存在が身近にいるなかで特別でない、一足飛びのない果てしなく長い階段が待ち受けています。
「樹は樹、自分は自分で焦ることはなく、着実に成長していこうと思っています。今は平田樹の兄という風に捉えられていても、いずれは樹に負けない存在になるという想いで普段から練習に取り組んでいます。いち選手として、お互いが切磋琢磨して良い影響を受け合うことが大切だと思います」
──ところで直樹選手は樹選手が離れたK-Clannで練習を続けているのですね。
「DEEPのチャンピオン牛久(絢太郎)選手や出稽古に来ている強い選手と練習していますし、横田さんも柔道出身で自分の得意なところ、不得意なところを理解してくれています。自分に合っている練習環境ですし、今離れる理由が僕にはないので。もう成人ですし、自分の練習場所は自分で決めます」
──今は1人暮らししているのですか。
「いえ実家にいます。K-Clanは距離的にも近いですし、僕ももう大人なので自分で判断します。
それに樹に呼ばれれば、今日のように一緒にラントレもしますし、寝技の研究もお互いに意見交換して、ジムで練習もしています。樹と練習する時間も自分には必要です」
──彼女から妹さんと仲が良すぎるという風に焼きもちを焼かれることはないですか(笑)。
「今、彼女はいないのですが(苦笑)……そういうところも理解してくれる人と付き合いたいと思います」
──なるほど(笑)。ところでプロデビュー戦の相手が、2017年の修斗新人王である星野豊選手でした。その選手から一本勝ちしている。平田樹の兄というポジション故に注目される一方で、ケージの中のパフォーマンスの評価に関しては正当でないとも感じています。
「星野選手がデビュー戦だったことは、それだけ期待されているということだし、その期待に応えたいと思って戦いました。樹も勝ち続けているし、戦績の部分でも負けていられないですから。本来プロデビュー戦は8月ぐらいに考えていたのですが、ヒューチャーキング・トーナメントでケガをしてしまい、まだ完調ではなかったので11月に戦わせてもらいました。怖さももちろんありましたが、腹をくくって戦いました」
──「なんで、修斗の新人王なの?」という想いはなかったですか。
「どうせやるなら、試合ができる範疇で少しでも実績や名前がある選手と戦える方が良いです。12月の相手も朝倉未来チャレンジで名前があって連勝している人だったので、そういう人たちと戦っていこうと思っています」
──ではプロ1年目となった2020年はどれぐらいの満足度で終えることができましたか。
「ケガもしましたし、60点ぐらいです。2021年はもう少し上位の人と試合をするために、本当はもう1試合戦いたかったです。少し出遅れてしまった部分があるので、やはり60点ですね」
──大学を卒業してからの転向は年齢的に決して早くなく、年下でもDEEPでチャンピオンになりRIZINで戦っている神龍選手や、修斗世界王者からONEを選択した箕輪ひろば選手がいます。
「そこは意識していないです。自分は自分というのが常にあるので。他人に影響されて、自分の往く道を進みたくないですし、良い意味で焦らず、自分のペースでやっていきたいです」
──MMAファイターとして目標は、どこに置いているのですか。
「今の目標はまずDEEPフェザー級チャンピオンになることです。今、絢太郎さんがチャンピオンで、次の舞台に行くのか分からないのですが、絢太郎さんに続くチャンピオンになって海外に行きたいです」
──それは樹選手がONEで戦っていることも影響していますか。
「いえ、海外というか……UFCがトップだと思うので目指すところはUFCです。自分はそういうつもりでMMAを始めました。UFCはエンターテイメントでなく、本当に戦う舞台。入場に煽りとかなく、まず戦いがある場所なので。自分はそこを目指したいです」
<この項、続く>
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