【写真】ウッドリーの消耗とドゥリーニョは覇気、対照的な精神状態だったか (C) Zuffa/UFC
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年5月の一番、第2 弾は29日に開催されたUFC ESPN09からジルベウト・ドリーニョ・バーンズタイロン・ウッドリーの一戦を語らおう。
──5月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?
「ドリーニョウッドリーです。タイロン・ウッドリーも年齢なんだなって。38歳で、ちゃんと年を食っている。それと優しいというか、弱いというか。ローリー・マクドナルドに完封された試合を思い出しましたね。
手詰まりになると、ずっとそのままなんですよね。絶対的なテイクダウンの強さを持っているのに、逆にテイクダウンまで取られてしまって」
──初回のダーティボクシングでダウンし、萎んでしまったのでしょうか。
「クリンチアッパーで」
──セコンドのディーン・トーマスが、4R前のインターバルで『全部取られているから、行くしかない』という指示をしていたのに、まるで出なかったです。
「行かなかったですねぇ。最後のラウンドでも、あそこで組みに行くって謎ですし。もう、この試合に関してだけでなく色々と疲れているのかなって感じました」
──30代後半で世界王座から転落し、ダイレクト・リマッチでなくトップ5に勝ってチャンスを掴めよ──という状況になると、もうしんどいのかなと。
「ドゥリーニョを当てられているということが、どういう意味が分かるわけですしね。『お前、もうイイよ』って言われているようなもので」
──青木選手はプロモーターと協力しあって、イベントを創る選手ですが、その役割を求められなくなると気持ちが落ちるということはあるのでしょうか。
「それは落ちますよ。『あぁ、そういう気なのね』みたいになって」
──では日本大会でホノリオ・バナリオと戦えとなると、張りはなくなったのですか。
「そこは、何て言うのか……仕事になりますよね。『じゃ、やりますか』って。そこで僕はウッドリーの今回の試合のように一発を貰っていないので分からないのですが、頑張れなくなる人もいるでしょうね。ただ、ウッドリーはそれよりも性格のような気がしました」
──ウッドリーの立場だと、自分を育ててくれたスコット・コーカーのBellatorでたくさんお金が欲しいとなるのではないかと。
「あぁ、もうUFCはイイやってことですね。そうだ、StrikeforceのChallengerとかでキャリアを積んできたんだから。まぁウッドリーにそう思わせるかもしれないぐらいの試合をドリーニョがやったということです。ショートノーティスでウェルター級に階級をあげてから、岡見選手に勝ったアレクセイ・クンチェンコをブッ飛ばした。どれだけウェルター級の方が体調が良いのかって。
ライト級ではトップどころと絡まなかったわけですからね。今回の試合でも体がムチムチしていたし、ウェルター級が合っているのでしょうね」
──道着を着たムンジアルの世界王者が、打撃でウットリーに勝つ。考えてみるととんでもないことですね。
「ドゥリーニョは今もグラップリングだけでなく、道着を着て試合に出ていますしね。競技柔術出身で、UFCでも最初は大切にされていなかった。でもウェルター級転向後はデミアン・マイア戦でもジャブにフックを合わせていましたし、アレはサンフォードMMA(ハードノックス)が使うパンチですよね。それとオーソドックスで右手、奥の手のアッパーが使えるのが大きいです。
右手のアッパーって、一番距離が遠くなるパンチじゃないですか? 自信がないと、怖くて打てないですよ。遠いところからアッパーって、キックボクシングでいえば大月晴明さんみたいな攻撃です。そこからダブルレッグを狙うという見方もできますが、それ以上の強振です。あの勢いはテイクダウンにいくパンチではない。なんか昇龍拳みたいに打っています」
──昇竜拳のごとく、戦力で殴ってダメージを奪うという。
「ドンドンって追撃して。あれも謎です。打撃で打ち勝って、柔術を使う。UFCで1年に4試合もしていて、その合間にグラップリングや柔術の試合に出ている。それがドリーニョの凄さです」
──試合後、サンフォードMMAの同門カマル・ウスマンに挑戦することをアピールしました。
「あれはぁ、チームといってもドゥリーニョはブラジル人のコミュニティがあるのかなって思います。それぞれの人種にティがあって、ノヴァウニオンのドゥドゥ・ダンタスマルコ・ロウロの初戦のような……勝った方が泣いて、勝利を喜べないという悲壮感はもうないんじゃないかと。
ファイトキャンプが同じということで、皆はUFCでトップになることを考えているので。でも、ウスマンは強い時のウッドリーですからね。ドゥリーニョは組んでも切られるし、打撃でもウスマンが上でしょう。
面白い顔合わせだけど、面白くない試合になる。ウスマンデミアン・マイア、GSPジェイク・シールズみたいな。面白くない試合のままならウスマンで、面白くなればドゥリーニョにチャンスもあるかなって思います。ドゥリーニョは打撃を振るようになっているので、チャンスは十分にあります。人生をひっくり返すかもしれないです」