【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ミゲール・バエサ✖佐藤天「後ろ足の位置」

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【写真】佐藤からするとバエサは遠く、バエサからすると佐藤は近かった。それが武術的空手的な見方となる(C)MMAPLANET

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──UFC ESPN18におけるミゲール・バエサ✖佐藤天とは?!


──佐藤天選手が肩固めで敗れた一戦ですが、打撃戦でもリードを許していました。

「まず佐藤選手って、従来は重心が高い構えではないですか。そこからカウンター狙いの。今回は物質的に重心が相当に下がっていました。だから凄く状態は良かったと思います。

ところが距離が掴めていなかったです。右を被弾したのが影響したのか、すぐにディフェンス重視になり、そのことで防御は良かったですが自分の攻撃ができなかった。距離が掴めていなかったように感じました。それは一つ、構えにも要因があるかと思いました」

──佐藤選手の構えですか。

「ハイ。佐藤選手は後ろ足……、左足が内側に入っていました。所謂ボクシングでアゴを引いて、肩をアゴにつけて斜に構えるというスタンスですね。自然体の歩幅から、真っすぐ後ろに左足が引かれているのではなく、そこよりも若干内側に位置していました。

結果的に正面を向いているつもりでも、中心が横にずれている。中心が横にずれていると、まず見える、見えないでいえば相手の攻撃は見えづらいです。そして真っすぐに打っていると思っていても、中心の方向に向かってしまいます」

──向きと中心にズレが生じると。

「そこを鍛えることができるのが、ナイファンチの型なんです。ナイファンチが横を向いているのは、横を攻撃するということではないんです。

ボクシングは相手に対して、正対しない。そういう拳での殴り合いだと思います。では、蹴りや首相撲のあるムエタイであの構えをするのか。しないです。ほぼほぼ正面を向いています。それがMMAになると、佐藤選手に限らず斜に構えること選手は割と多いです」

──ボクシング+レスリングに蹴りが入る。ボクシングとレスリングが逆さになったとして、ここが北米MMAの主流ではあるかと思います。

「ハイ、スポーツなんですね。ボクシングもレスリングも。防御と攻撃が別れている。そして、佐藤選手のあの構えは実は防御の構えになるんです。

それが防御と攻撃が分かれているスポーツならではの発想です。防御態勢にあるのだから、間は相手になります。そこで攻撃を出しても、逆に攻撃を受けてしまう。後の先が取れなくなってしまうことは多いです。つまり、この試合でいえばバエサの間で試合は進んでいたということですね。

佐藤選手は相手が前に出てきたときに、左ストレートを合わせます。これが素晴らしい威力を発揮します。ただし、今回の試合はバエサを追ってしまっていました。少し前につんのめるような形で。ああいう動きがあるということは、距離が合わないというか……佐藤選手は、バエサが遠く感じていたのではないでしょうか」

──第3者が見ると同じ距離が間にあるのですが、佐藤選手の方が遠く感じてバエサは近く感じていたと。

「そういうことです。バエサは近いと感じていたと思います」

──手数はバエサでしたが、圧力を掛けていたのは佐藤選手のようにも見えました。

「それが追っていたということですね。アレは前に出るというよりも、追ってしまっていた。つまりバエサが呼んでいたんです。そしてバエサが詰めていくようになる。同じ前に出ているということでも、追うのと詰めるでは質量も違ってきます。バエサが詰めてきたときは行けると踏んで、本当に殴りくるので質量が高かったです。

もともと、近く感じていたから右ストレートも、右の蹴りも思いきり蹴ることができていました。バエサの蹴りは勢いこそありますが、決して良い蹴りではないです。どちらかというと佐藤選手が蹴らせてしまった。そういう蹴りに感じました」

──バエサの間だったから、蹴ることができる……。

「佐藤選手の間だと、あの蹴りはでなかったと思う。それにストレートは足を触って、テイクダウンのフェイクも織り交ぜていました。間がバエサなので、組みでも佐藤選手は組み負けてしまいましたね。

肉体、肉体の運動というのはエネルギーであったり、目に見えないモノの結果としての現実なんです。ですから物体として、内面から質量を伴う動き──あの間であっても、佐藤選手は連打でぶん殴りに行けて、組んでも倒せる回転力のある攻撃が可能な重心でした。それが出来なかったのは、距離が合わない何かがあったのでしょうね。

あの物質的な重心の低さがあり、回転数のある攻撃を見せることができていれば、バエサも相当怖くて、蹴りや右はなかったと思います。だから距離が合わなかったかもしれないですが、佐藤選手に関しては勢いのある攻撃は欲しかったです」

──手数は確かにバエサでした。

「選手がまずは攻撃を受けないところから、試合に入るのは致し方ないです。バエサも勢いが出てきたのは途中からでした。だから玉砕覚悟で前に出るということはすべきではないですが、内面を伴った上での滅多打ちができる状態にはありたいですね。

一生懸命にやり込んできたのは、それはすぐに分かります。本当に他の人間なら無理なぐらいに懸命に創ってきたからこそ、ウェルター級であんな連中とやり合うことができている。今回は途中で距離が狂ってしまったことで、こういう結果となってしまいましたが、思い切り打って組むことができるだけ準備はしていたはずです。

それができる佐藤選手のような精神性の高い選手は日本に滅多にいない。本当に特別な日本人MMAファイターです。本来は不可能なことをやっていると思います。日本人がUFCでああいう練習とやっていけるのは、現実的に見てフェザー級までだと思います。だからこそ、回転数の上がった攻撃を時間は是非とも見てみたいです」

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