【写真】3月の一時帰国の際、日程を切り上げてフロリダに戻った佐藤の決断がこの勝利への一歩だった(C)Zuffa/UFC
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ6月の一番、第3弾は27日に開催されたUFC ESPN12から佐藤天ジェイソン・ウィットの一戦を語らおう。
──6月の青木真也が選ぶ、この一番。3試合目はどの試合になるのでしょうか。
「佐藤天ジェイソン・ウィットですね。これ、皆が気付いていないことでいうと、相手はそんなに強くないですから。そこがあるので、彼も完全に気が抜けていないところがあると思います。このご時世でUFCといえども、相手が余りいないというのはあります」
──それも全て佐藤選手の力だと捉えることはできないでしょうか。
「勿論、その通りです。で、これは僕の言い方として……ホントにどうかとは思うけど、今はコレは火事場泥棒だから(笑)。今のUFCって、待っていればまたすぐに回ってくるだろうし。この間みたいにスクランブルで出てくるヤツもいる。体調さえ整えていればチャンスは巡ってくるんです。
でも、日本にいたらそれは無理。米国にいるから、そのチャンスが回ってくる。運は実力でもあります。さらに火事場泥棒だから、今はもうそのまま待っていれば良いよ──って彼にメッセージも送りました。今は米国にいることが財産です」
──確かにその通りですね。
「ホントに結果論ですが、3月のタイミングでフロリダに戻って良かったですね。博打に勝ちました」
──それこそ佐藤選手がUFCで戦うという意志を持ち続け、フロリダに移り住んで強くなるという決意の延長線上に今回の試合もあったということですね。
「だと思います。僕は3月の時点で米国に戻るより、日本に残った方が良いと思っていました。米国はロックダウンがあるし、日本はそんなに増えないから残る方が良いって。でも、全く違いましたね。フロリダに戻ったからこそ、このタイミングで試合ができて……。今はほぼほぼアジア人は米国にいないとチャンスはないですからね」
──新型コロナウィルス拡大からアジア人で戦ったのは佐藤選手とサクラメント在住のソン・ヤードンの2人だけですしね。ファイトアイランド大会はブラジル、ロシア系の選手がかなりの数を占めています。
「米国人を無理からUAEに連れていく必要はなくて、ブラジル人ロシア人とか、たくさん組めばOKで。なら佐藤選手も米国で待っていれば良い、8月まで。もう地の利で、完全に掴んでいますよね。凄く良いことです。
今は金とかでなく、自分の物語として確立すべきことがあって。ここ1、2年が勝負でそこを越えるとファイトマネーだって額が違ってくる。そういうタイミングの時にコロナがやってきて、米国にいる」
──チャンスをモノにするチャンスがやってきた、と。
「今回の試合でKOボーナスがもらえないのは、日本市場が盛り上がっていないからで、それは残念だったけどUFCのメインカードでKO勝ち。それもウェルター級ですよ。これはもう尋常でないということは皆に分かって欲しい」
──マイケル・ビスピンなど、実況でも絶賛していました。
「そうなんだぁ」
──とはいえ、さきほど青木選手が言われたUFCのウェルター級です。
「まだまだ佐藤選手は、難しい位置にいます。まだまだ、です。今回の相手はスクランブルで出てきた格下との試合だった。格上を見れば、もうとんでもない連中が揃っています。すぐにトップ10は無理、そう思います。だからこそ今、自分で手に入れた環境で力をつけて、そのトップ10に辿り着くまでに力がつく相手と戦う……ことなんでしょうね。
一度相手になっていたティム・ミーンズにしても、勝ち負けを繰り返していても強い選手です。ロシア人もいるし、ブラジル人もいる。それがUFCですから」
──トップ10と戦うにはもう1、2段ステップアップが必要だと。
「1段、2段で済むのかな。そう思っちゃいます。だからこそ、そんな場で12年近く戦っているジム・ミラーがどれだけ凄いことをやっているのかということで。ホント、佐藤天選手がやっていこうとしていることの凄さ、UFCのウェルター級で結果を残すということは、それだけのコトなんです」