【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。オリヴェイラ✖ドゥダエフ「横蹴りバランス」

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【写真】肉弾相打つといった消耗戦を制したオリヴェイラ、彼の勝利はドゥダエフの正面と横蹴り、2つのバランスの違いにあった(C)ACA

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑氏とともに見てみたい。

武術的観点に立って見た──ACA112におけるダニエル・オリヴェイラ✖アブドゥルラクマン・ドゥダエフとは?!


──今回は日本や北米なく、ロシアからブラジル人とロシア人ファイターの対戦です。

「まず、この試合は最近のUFCの5分✖5R戦で見られる燃費合戦とは違い面白かったですね。ドゥダエフって、チェチェン人ですよね。チェチェン……カフカスという地域は、僕らにはまだ幻想を抱かせる響きを持っています。ドゥダエフなんて、ソ連崩壊時の極真のチェチェン支部長の名前ですからね(笑)」

──アハハハハ。

「まぁ、こういう選手は強いですよ。ただしドゥダエフはパンチが打ちたくてしょうがない構えなのに、良いのは蹴りという一風変わった選手でした。横蹴りバランスと私は呼んでいるのですが、サイドキックを出せるような構えで。最初はガードが高くて、小さな構えだったのでフック系の選手かと思いましたが……。

そういうフック系の選手かと思っている間は、オリヴェイラの間でした。あまり良いパンチを打っていないから。オリヴェイラは圧力とか余り感じていなかったと思います。それが、いきなり後ろ蹴りをスコンと入れて。その途端に間がドゥダエフになりました。そうすると、オリヴェイラが急にガクンとなって。

その時に気付いたのですが、ボクシングの構えだとあんな風にスムーズに蹴りを出すことはできないんです。前蹴りにしても、回し蹴りにしても。特に彼が器用に使っていた後ろ蹴りなんかは。後ろ回し蹴りも使うし、直線的な後ろ蹴りをよく使っていました。これは横蹴りバランスだと。横蹴りバランスは、骨盤の動きがスムーズになって上手く蹴ることができるんです。フルコンタクト空手とか散打が盛んだからなのか、ロシアにはこういう選手は多いですね」

──確かに北米系の選手では、そういう傾倒の選手は極端なサイドキックを使う選手ぐらいで、あまり見ないです。

「それは逆に横蹴りバランスだと、MMAでも見られる勢いのあるフックとか打てないからでしょうね。横蹴りバランスは……ジョン・ジョーンズぐらいですかね、米国では。TJ・ディラショーなんかは正面バランスでパンチから蹴り、蹴りからパンチをしています。そういう上下の攻撃をどちらも見せることができる選手は、米国ではまだとても少ないです。どうしてもMMAは蹴りが得意、パンチが得意という風に分かれる傾向にありますから」

──そしてドゥダエフは蹴りの選手だったと。

「そうですね。ドゥダエフはパンチから蹴り、蹴りからパンチという風に連係されておらず、完全に蹴りとパンチがバラバラです。そして後ろ蹴りや回転系の蹴りを出すときは横蹴りバランスになっています。

横蹴りバランスは先を取るのに適しています。よって横蹴りバランスの時は自分の間だったのに、彼はパンチを打ちたがっていた。パンチの時は正面バランスになり、そのまま左のハイキックを出した時に、右ストレートを合わされてダウンを喫しました。横蹴りバランスで回転系の蹴りを出している時はドゥダエフの質量が高いですが、正面を向くとオリヴェイラになっていました。結果、ここぞという時にドゥダエフが正面バランスになるので、逆にオリヴェイラが要所を抑えるような試合という風になっていきましたね」

──オリヴェイラの攻撃は、遠くからオーバーハンドを放り込むようなことが多くなかったでしょうか。

「後ろ蹴りを被弾してから、間合が遠くなりました。それからもオリヴェイラのスピニングバックブローの直後に、ドゥダエフが後ろ回し蹴りを狙うなどフルコンタクト空手のような間合で戦う場面もありましたが、徐々にドゥダエフが下がるようになっていったんです。

ダウンもあってバックを取られ、RNCを狙われた。スクランブルの攻防が入ると、オリヴェイラの方が上でした。それもシングルレッグで倒されたときは、ドゥダエフは正面バランスなっていて、オリヴェイラの間だったんです。ドゥダエフは横蹴りバランスから二段蹴りを使うなど入りは良かったのですが、すぐに正面バランスを取ってしまう。そこで勝つなら組みだっていう勢いで、オリヴェイラが飛び込んでいました」

──それでいて、オリヴェイラの腹へのヒザ蹴りで勝負は決しました。

「最後のヒザは完全に顔面だと思ったところで、腹に入りましたね。ただし、チェチェン人なら腹で倒れちゃダメですよ(笑)。お前、そこは耐えろよと。まぁ、あの構えは腹が弱いです。少し前傾、お腹を引いてガードを固める。猫背になっていて、距離は遠く感じるのですが、あの構えは間が完全に蹴りになってしまいます。

それとドゥダエフは正面になった時の技がなかったように見えました。正面になるとテイクダウン、右ストレート、そして最後のヒザ蹴りと、攻撃を受けていました。横蹴りバランスの時と比較して先が取れなくなっている。正面バランスでは武器がなかったからだと思います。

しかしACAは面白いですね。と同時に米国で練習しているロシア人と比べて、ロシアがベースのロシア人選手は強いからこそ、試合の組み立てがない。もう自分の強さを100パーセント信頼している。こういうところでブラジルや米国人選手に遅れを取っているかと感じました──MMAとしては。ただ、元々の強さはロシア人です」

──ACAはUFCに次ぐレベルにあるといっても過言でないです。軽量級のチャンピオン達がUFCに進出し、ピョートル・ヤン、ザビット・マゴメドシャリポフ、アスカル・アスカロフと完全にトップですし。

「日本人選手には、ACAは出るなって言いたいですね(苦笑)。青木選手も以前、ロシアは掘るなと言っていましたけど、本当にそういうプロモーションです。危ない。でも、ここに挑もうとした日本人選手は覚悟決まっていますね。

それと横蹴りバランスなんですが、MMAで相当に使えるはずです。やれることが、かなりあるんです。私たちは70年代、80年代の極真空手だったから正面バランスだったけど、フランシスコ・フィリョやブラジル人は横蹴りバランスでした。

そしてK-1にいってからも、横蹴りバランスからの突きでアンディ・フグをKOしたのですが、キックボクシングを習うようになって正面バランスになると、フィリョのパンチの威力は落ちしてしまって。本当に面白いモノです。股関節の固い人っていうのは蹴りがなかなか難しいのですが、骨盤の使い方で足は上がります。だから回し蹴りだと難しくても、横蹴りバランスにすると色々なことができるようになるんです。で、横蹴りバランスというのはナイファンチなんです」

──そこは非常に興味深いです。是非また、教えてください。

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