【写真】なぜ欧米ではキックやムエタイで実績を残している選手が、次々とMMAで成功しているのだろうか。いや、逆になぜ日本にはあまり見られない事象なのだろうか (C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
2020年12月の一番、第ニ弾は12日に行われたUFC258からラファエル・フィジエフヘナト・モイカノについて語らおう。
──青木真也が選ぶ2020年12月の一番、2試合目をお願いします。
「ラファエル・フィジエフとヘナト・モイカノの一戦ですね。フィジエフはUFCデビュー戦でマゴメド・ムスタファエフを相手にこけたけど、それからは連勝していて。勝ち方が派手で、ROAD FC時代(※2017年6月10日キム・スンヨン戦、同年12月23日ムントスズ・ナンディンエルデン戦)の勢いの良さが出てきましたね。
モイカノは去年から階級をライト級に上げてきているのですが、それにしても左ボディフックから入るって凄いです。あんなことをMMAでできるの? 怖くないのって思いました」
──フィジエフはタイや欧州で50戦近いムエタイやキックやムエタイの経験がありますが、MMAでもあの距離で打撃戦ができるわけですね。
「キックなら分かります。そして、MMAでも以前より重心が高めのスタンスを取る選手も増えてきました。でも左のボディから入るって、顔が空くのに。相手の奥の手側で、右ストレートを合わされるリスクがある。それをMMAグローブでやってしまう度胸は凄いと思いました。
言い換えると自信があるのでしょうね。最後も左から右、そして左で倒しました」
──最後の1発は、モイカノは全く見えていなかったです。
「結局、あの最初の左の踏み込みがあるから右を合わせて、また左が出せる。アレは日本人にはできないと思いましたね」
──日本人はできないですか。
「できないです」
──例えばですね、フィジエフだけでなく相当な立ち技のキャリアのある選手がMMAに転じてきました。ビッグネームでなくても、そういう選手は組みと寝技を消化して中間距離で打ち合って、プロモーションやファンからも受ける戦いをしています。日本でK-1などキックやムエタイで、ガンガンやっている選手がMMAに転向したら、それも可能ではないでしょうか。
「できないことはないと思います。K-1の話になると、打ち合いなさいという戦いだけど、本当に一流は貰っていないですよね」
──それはMAX時代からそうでした。
「それでも戦い続けているとアンディ・サワーとかダメージが蓄積していますけど、魔裟斗はパンチのある選手に対してロー勝っていて。パンチ勝負で消耗しなかったです。あのルールで本当のトップは貰わない。今も野入選手とか、貰わないですよね。
言い方は悪いけど、下っ端というか抜けきれない人は技量でなく漢気で魅せていますけど、トップの人は貰っていないです」
──では明日の大晦日に平本蓮選手がMMAデビューを果たしますが(※取材は12月30日に行われた)、青木選手はどのように考えていますか。
「平本蓮選手は打撃の使い手としては神憑っていると思います。特A級です。これは岩﨑(達也)さんの武術空手のところと重なってきますけど、でもMMAっていうのは総合的な打撃だから。
組技があることによって、組み技の圧力が加わったところでの打撃です。だから平本選手が仰る『MMAの打撃は俺から見たら素人だ』という理屈は分かります。それは仰る通りです。でも組み技が入ったら違うんだせ──というのはあります」
──しかし、そんなことはもう第1回UFCで分かったことではないでしょうか。その後ストライカーが柔術、さらにレスリングを習得し、ある程度出来上がったスタイルを皆が学ぶ時代になった。結果、基本中の基本を皆が忘れてしまうのですか。
「そうレスリングの圧力がところで戦っているという部分が、なぜか抜け落ちている。いや分かっているようで、まだ分かっていないのでしょうね」
──そこを理解し、それこそフィジエフやイスラエル・アデサーニャのように消化すれば平本選手だけでなく、日本の立ち技選手もMMAで活躍できる?
「そういう話にはなるのですが、そんなに簡単に組み技は消化できないですよ。ホントに本気ならないと。MMAは1+1が2の世界じゃないですから。競技として真面目でMMAを見ないと。真面目に見ていない人は、本当には理解できないです。本当に格闘技を分かっていて、やっているなら自分がUFCとか口にできないって分かるはずです。酷いことを言うけど、僕は道化として見ちゃっている部分はあります」
──青木選手の道化というのが、決して蔑む言葉だとは自分は思っていません。存在感を認めているということで。
「ハイ。で、あの打撃があって真剣に組み技に取り組めば、今の打撃を評価する傾向にある世界のMMAで勝てるスタイルで戦えます。ただし、簡単にそうはならんですよ。
ロシア、ブラジル、米国、海外の立ち技の選手が、それができるのはキックとMMAが地続きで、そのMMAがUFCと地続きだからだと思います。だから本気で学ぶ姿勢を持てます」
──対して、日本は……。
「現状は地続きじゃない。日本国内で完結するわけじゃないですか。ちょっと喋りが上手くて、トラッシュトークが出来る。ドン・ドンって打ち合いができれば完結するから。それで完結しても良いんですよ。でもMMAとしては、変わってきますよね。
今、情報が全て平等に与えられたことでグローバルな資本主義がコネクトしました」
──……、?
「つまりどこにいても誤魔化しがきかないモノが出来上がってしまったということです。それは僕がDREAMを戦っている頃からで。僕のレコードは世界中の選手とネット上でリンクするようになった。
だから未知の強豪なんてモノを興行側も創ることができなくなりました」
──ハイ。逆に情報が多すぎて、未知ではなく……我々が追い切れないという意味で、無知の強豪がいくらでもいます。
「それが2020年、日本の格闘技は完全ガラパゴス化を進めました」
──そこにはコロナの影響で外国人選手を招聘することが困難になったという事情があるかと思います。ただしUFCもBellator、ONEもBRAVE CFやUAEWもグローバルのなかで活動を続けている。国内スポーツを見れば契約して日本に長期滞在がベースではないところでいえば、モータースポーツは懸命に欧米と行き来し、リングしている。グローバル経済の中に踏み止まっています。
「でも日本の格闘技はビジネスとして、グローバルなモノが一切通じなくなった。そのメリットもありますが、強さの追求という部分ではデメリットの部分も同然あります。その危うさを十分に感じています。危うさがあるなかで、ガラパゴスをつくった人達が幸せを享受している感じです。海外に出向く、一部の選手を除いて……今の日本の格闘技は
いや、全くフィジエフの話ではなくなってしまいましたね(笑)」
──いえ、しっかりと地続きの話です。頂戴させてもらいます(笑)。
The post 【Special】月刊、青木真也のこの一番:12月─その弐─フィジエフ✖モイカノからの「平本蓮とローカル化」 first appeared on MMAPLANET.